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2018.07.11

インタビュー

伝統という名の意志をつなぎたい

綾の手紬染織工房/二上拓真さん

 自然豊かな町、宮崎県の綾町に50 年以上の歴史のある、藍染などを行う綾の手紬染織工房があります。ここでは、伝統の技法を引き継いでおり、蚕を育てて糸を取り、藍などの天然染料で染め、手織りで反物を仕上げています。また工房にはギャラリーがあり、着物からT シャツまで様々な作品が並んでいます。今回お話を伺った綾の手紬染織工房の二上拓真さん。若き伝統の担い手が考える継ぐことへの思いとは?

この人と働きたいと思った

 「感覚的に職人の秋山さんと働いてみたいと感じて、この工房に来ました」柔らかく優しい笑顔で話してくれる二上さんが、綾の手紬染織工房を訪れたのは大学3 年生の時。幼い頃から、綾町によく遊びにいくことがあり、染織工房の存在は知っていましたが、訪れたことはありませんでした。ある日、東京の知り合いが工房を訪ねると聞き、興味本位で同行したことが、工房の主宰者である秋山さんとの出会いでした。「秋山に始めて会った時に、職人の怖いイメージとは違い、フレンドリーで優しい雰囲気に驚きました。どんなことでも教えてくれて、話をしているうちに、感覚的にこの人と働きたいと思うようになっていました」

面白さが尽きない

 それから東京での大学生活に戻った二上さん。大学4年生になり、将来を考えた時、二上さんの中で、一番大事にしたいと思ったのは『この人と働きたい』と感じる人と、仕事ができるのかということでした。大学3 年生の時に、2~3 日工房での仕事を体験しただけでしたが『ここで秋山さんと仕事がしたい』と、思いが強くなっていました。そこで、当時予定していた大学院進学を辞め、宮崎に帰ってくることに。始めは、秋山さんも周囲の大人たちも工房で働くことに対して、心配をしていたそうです。しかし二上さんの『この人と働きたい』という思いが伝わり、念願の工房での仕事がスタートしました。藍染めをはじめとした工房での仕事は奥深く、気温や湿度、自然のあらゆることが、できあがる染物や織物などに影響します。限りなく追求できる世界に、ハマっていきました。「藍染めをしていて興味が尽きません。作業としてやろうと思えば簡単ですが、藍で染めるだけでなく染料を管理したり。常に藍のことを考えているほど楽しさが尽きないです」

できることが増えて生まれた苦悩

 工房の多様な仕事にも慣れ、楽しさや面白さが尽きない日々を過ごしている二上さん。しかし、できることが増えたことで、悩みも増えていきました。「3 年目が、気持ち的に一番落ち込むことが多かったです。できることが増えた時は、とても嬉しくて。だからこそ仕事量が増えても、自分一人でやらないといけないと、全部背負っていました。作業量を無理していた分、ミスを起こしては落ち込むの繰り返し。そこで気持ちのバランスを崩してしまいました」
 そんな時、二上さんに転機が訪れます。それは、工房の主宰者である秋山さんが教えてくれた、工房への思いを知ったことでした。「秋山は40 年前にこの工房を作り、ずっと守ってきています。単なる産地という工房のはじめ方ではないので、ゼロから作り上げる苦悩はすごいと思います。その苦悩に比べたら、自分が凹んでることは小さいことだと、気づき前向きに考えられるようになりました」

伝統に自分らしさをつなぐために

 二上さんが綾の手紬染織工房でこの仕事を始めて、今年で4 年目。これからは『自分らしさ』をどう藍染に、取り入れていくのかを考えているそうです。「今まで秋山が作り上げてきたものをベースに、自分らしさをどう取り入れていくのか、を今の自分の課題にしています。私は、伝統とは『意志を引き継ぐこと』だと、思っています。工房としては、蚕を育て糸をつくり染め、手織りによる一貫した織物作りが特徴なので、そこを生かした何かを作り出したいと考えています」

 染料の独特な匂いや色、紡いだ糸を織る際に響く機織りの音など、工房を見学させていただき二上さんが藍染に惹かれる理由に、気づきました。取材の最後に、二上さんがこれからデザインや商品加工へのアイディアなど、一緒にチームになってくれる人がいてくれたらと話してくれました。伝統を守り続けながら新しいことに挑戦し続ける、二上さんのこれからが楽しみです。